1月
一定額を「みなし残業代」「固定残業代」として残業代の定額払いという手法を用いている会社があります。経営者の中には「みなし残業代を支払っているから」、「残業代は固定で支払っているから」と残業代未払いの問題は起きないと思われている方もいます。
しかし、「みなし残業代」「固定残業代」といった定額残業代は、一定の厳しい要件を満たしていない場合には、残業代の支払いと認められないことがあります。
この場合、労働基準法施行規則21条により、「みなし残業代」「固定残業代」として支払った金額が、残業手当の計算の基準となる基本給に組み込まれてしまい、1時間当たりの残業代の単価が跳ね上がり、莫大な金額となってしまうリスクがあるのです。
例えば
A社では、Bさんの賃金として
基本給 25万5000円 固定残業代(40時間分)7万5000円
合計33万0000円
を支払っていたとします。
この場合、Bさんが毎月40時間の残業をしたとしても、固定残業代が残業代の支払いと認められれば問題はありません。
しかし、仮に認められなかった場合…
残業代の計算において、固定残業代が基本給に組み込んだ上で時給の計算をすることになりますから、33万円が基本給と同じ扱いで計算がなされてしまい、毎月9万円を超える残業代を支払わなければならないことになってしまいます。
賃金請求権の時効は2年となりますので、仮に残業代2年分請求されると200万円を越えます。同様の従業員が10名いれば2000万円、さらに、裁判で付加金の制裁を受ければ倍額の4000万円の支払いを命ぜられる可能性もあります。
考えるだけで恐ろしいリスクとなります。
労働基準法37条は、法定時間を超える労働に対し、時間外割増賃金を支払わなければならないとされており、その前提として、企業には従業員の労働時間を正確に把握しなければなりません。
ですから、労働時間を把握し、それに応じて残業代を支払うのが最もリスクがなく、おすすめする手法です。
しかし、そうはいっても、現実に「固定残業代」、「みなし残業代」という定額残業代の手法の需要はあり、現実にこのような手法を用いる企業は非常に多いです。
仮に、やむを得ず定額残業代の手法を用いる場合であっても、上記のリスクを最大限に減らす制度設計をする必要があるといえるでしょう。この点については、裁判例等を参考にしながら、次の記事以降で解説していきます。
弁護士 山 田 亮 治